御岳登山で噴火に遭遇した話

戦後最悪の火山災害となってしまった御嶽山の噴火。その時自分はこの山に登っていた。結論から言ってしまうと自分は噴火場所から少し遠いところにいたため石が降ってきたわけでもなく、無事に下山することが出来た。

元々登山が趣味という訳ではないが、ツーリングのついでに山を歩くなどということを時々行っていた。8月に木曽駒ヶ岳に登り、次の目的地は前々から一度は登ろうと思っていた御嶽山に決めていた。頂上に行って帰ってくるだけなら日帰りで十分いけるコースだが、北側の三の池、四の池周辺も良いらしいし、大滝口からの登りは景色の単調な急斜面をひたすら登る感じで、ここを往復するだけというのは勿体ない気がした。そこで、御岳ロープウェイから入って途中山小屋で一泊。そして御池巡りをして戻ってくると丁度良い感じの時間配分に思えた。

初日:飯盛高原-女人堂-三ノ池道-三ノ池-四ノ池-継子岳-五ノ池(五ノ池小屋泊)
二日目:五ノ池-摩利支天山-二ノ池-剣ヶ峰-黒沢口登山道-女人道-飯盛高原

設定したのはこんなコースだ。反時計回りにしたのは、その方が若干全体のコースタイムが短く、つまり楽に歩けると思ったのだが改めてみてみるとどうもそうではない。なんとなく選んだのかもしれない。

当初は前の週に出かけようと考えていたが、天気予報が好天を示しておらず(実際には良い天気だったが)紅葉のピークが近づいているようでこの機を逃してはいけないと思いこの週末に出かけることにした。

6時少し前に御岳ロープウェイの駐車場に到着。朝焼けの雲がきれいだった。車のシートを倒して少し休んだ後、パンとコーヒーで朝食を摂り、装備を調えて7時30分頃ロープウェーに乗った。ロープウェイといってもここは駒ヶ岳にあるようなものとは違い、スキー用のゴンドラだ。行列を作ることもなくすぐに上がることが出来た。
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ゴンドラから見える山肌は綺麗に色付いている。空も晴れ渡って良い時期に来たと思った。

山の上では既に初霜が下り、10月になると雪の降る日が出始める山なので今回は防寒対策を厚めに装備を選択したが、登り始めるとすぐに暑くなりもう少し薄着での良かったと少し後悔した。前半はひたすらまっすぐに高度を稼ぐ感じで結構キツい、しかしコース沿いの色付いた木々を愛でながら、時々足を止めて呼吸を整えながら昇と8合目女人堂へ到着。ここから山頂に向かって見える紅葉がすばらしい。
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女人堂からの眺め
女人堂からの眺め
女人堂からの眺め

一休みして出発。ここからは二つのルートがあるが、大多数は御嶽山頂上へ向かう黒沢口登山道を行く。そして自分は三ノ池道へ。こちらは斜面をトラバースしながら少しずつ高度を上げる。このあたりも最高の景色の筈なのだが、歩き始めてすぐに霧が出始めた。ほんの数メートルだが雪渓がひとつ残っていた。最後に一気に高度を稼いで三ノ池へ。御嶽山には水を湛えたもの、ないもの併せて一ノ池から五ノ池まであるが、三ノ池は綺麗な水を湛えている。そしてそのすり鉢状の地形はまさにそこが火山口であったことがわかるなどと思ったのだった。
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三ノ池
三ノ池
 
噴火の前30分程前に撮影した全天(パノラマ)画像。
https://www.google.com/maps/views/view/117860141793623035132/gphoto/6063797231198606578

三ノ池を見下ろすところでおにぎりの昼食。ここで噴火の15分前。

三ノ池の北側には四ノ池がある。ここには水がないが流れ出す川がある。川沿いでストーブを出してお昼休憩している人がひとり。そして丁度その頃南の方でゴロゴロ音がし出した。少しガスが濃くなってきて雷だと思った。雷なってきちゃいましたねなどと言葉を交わして四ノ池を離れる。まだゴロゴロと音が鳴り、周囲が少し暗くなった。これはレインウェアの準備をしないといけないかと立ち止まると袖に白いものが落ちてきている。そんなに冷えていないのに雪? と思ったが溶けて消えない。ん、これはもしやと思う間もなく沢山の灰が降り出してきた。撮影した画像のタイムスタンプを見ると12時16分。噴火から25分ほど経過していることになる。風は東へ吹いていたので、北側への到達は時間が掛かったのかもしれない。さてどうするか。どこかで噴火が起こったということは間違いなさそうだ。今日は五ノ池小屋泊で後は継子岳を回って小屋へ行くだけの予定だった。とりあえず小屋へ向かおう。三ノ池手前まで戻って五ノ池小屋へ向かう方が実際は速かったが、その時はそのまま進むことを決断してしまった。灰はどんどん積もっていく。登りでは呼吸が上がるがなるべく口を閉じて歩く。継子岳周辺は岩場が多い。岩場のルートはペイントを確認しながら歩くのだが、積もった灰でそれを確認しにくくなってきている。周囲の様子と足跡の痕跡を探しながら慎重に歩く。まだこの時は灰の積もった岩の上でも滑ることはなかった。
四ノ池
Volcanic ash was falling
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結局五ノ池小屋へ到着するまで誰にも会うことはなかった。降灰はだんだんと少なくなっていたが、最初は自分はちゃんと家に帰ることが出来るのだろうかと本気で不安になった。もちろん大きな石が降ってきた訳でもなく、熱波やガスが襲ってきた訳でもなく結果的に生命の危機は全くなかったが。途中何度も雷鳥を見た。普通の状況であれば大喜びでカメラを向けるのだが、カメラ自体はもうバッグに仕舞っていたし、iPhone を向ける気力も乏しかった。iPhone は灰の降る中使っていたら液晶に張ったフィルムがあっという間に傷だらけになってしまった。

一ノ池付近で噴火があったこと、警察より下山命令が出ているので濁河へ下山すること、そこからロープウェイの駐車場まではバスが用意されることなどを確認した。一日の行程を歩ききったあとに下山するというのはキツいが選択の余地はなさそうだ。灰と汗で固められた髪の毛と顔を少し洗い、小屋で甘い飲み物を摂取し、一息ついて下山を開始した。
 
火山灰まみれ。この画像は週明けのめざましテレビに使われた。(トリミングしておいて良かった(笑))
self
 
この画像も。
五ノ池小屋前
2時間で着くなどと言われたが、ガイドの標準時間は2時間30分、実際には3時間掛かった。上の方はゴロゴロした狭い河原を歩いている感じだが、降った灰が湿気を帯びてきたのか非常に滑りやすい。森の中に入ると今度は木が敷かれた道が多く、これも良く滑る。滑るのに備えて慎重に足を運ぶがだんだんと押さえが効かなくなって疲労度が増す。日差しがあまり入らず薄暗くなりつつあるなか、漸く下山した。時間は5時。

登山口には警察、消防など沢山の人が待ち構えており、とりあえず下山届を記入、バスへの乗車の意思を伝えて待機のバスに乗り込んだ。自分は運良く避けられたが、ここには結構沢山のテレビカメラが待ち構えており、下山者のコメントなどを取っているのだった。

今回一泊二日の山行だったので十分な容量のバッテリーを持参したが、途中から iPhone への充電がされなくなってしまった。(Lightningケーブルが壊れた) 下山中にNHK社会部などからコンタクトされたりもしたが電池がないと断り、結局4時頃から車に戻る8時過ぎまで電源が切れたままであった。TwitterFacebook で登山中であることを知った人達ににも、下山の報告が出来ず心配させてしまった。

結局当日下山してくる最後の人達を待って6時30分過ぎにバスが出発。ロープウェイの駐車場に到着した時には8時を回っていた。ロープウェイのターミナルでは身元の確認と駐車車両の確認をして解放。火山灰を被った車は水を掛けてもらい、視界を確保できるようにしてもらった。ロープウェイ駐車場からの下山の最中、何台もの自衛隊車両が上がってくるのと擦れ違った。
 
ロープウェイ乗り場。
御嶽ロープウェイ前

帰宅の途中、長野県警から電話があった。登山届けに基づく安否確認であった。電話の電源が切れていた時に最初の連絡があったのか、緊急連絡先として記入した実家にも電話が入っており、慌てて実家に電話した。やはり何かあったときに登山届けは重要なのだ。このところヤマケイオンラインのサービスを利用しているが、ここでは登山計画が作成できて地図が印刷でき、登山届けも一緒に印刷することが出来る。無料で利用できるので有効利用したい。http://www.yamakei-online.com

今回は居た場所が噴火口から遠かったために大きな危険はなかったが、それはたままた設定したルートの運が良かっただけで、逆回りのコースを選んだり、日帰りの計画だったら自分も命を落としていたかもしれない。

御嶽山の噴火がいつ落ち着いて再び登れるようになるか判らないが、登れるようになったら今回たどり着くことが出来なかったピークの獲得と慰霊の気持ちを込めて再び登りたいと考えている。